アラカワ+マドリン・ギンズの作品の特徴の一つとして、暫定性、間違いの許容、そして何より遊び心があげられる。二人にとってリサーチのプロセスは作品の完成と同じほど重要だったので、多くの作品やプロジェクトは常に進行形で実験が繰り返されていた。こうした未完成、未出版、未建築、あるいはオープンエンドの作品やプロジェクトからは何が見えてくるだろうか。天命反転財団(RDF)では、スケッチ、写真、草稿、書簡、音声・映像記録など多岐にわたるアーカイブ資料を整理中だが、この問いに何らかの答えを出すどころか、ますます質問が噴出し謎が深まることが多い。その意味では、アーカイブ調査もまた究極的には「未完」の作業である。いくつかの発見が疑問の一端を解きほぐしアラカワ+ギンズの思考を垣間見せてくれることもあり、二人の気紛れな意図を暗示するかのように疑問がいや増すこともある。本パネルでは、アーカイブ調査を入り口として二人のアート、建築、テキストの「未完性」を探る。
キャスリン・デネット(RDFプロジェクト・アーキビスト)
「「現在進行形の遺稿」を整理する──アラカワ+ギンズ・アーカイブの新発見資料」
本発表では、RDFアーカイブの現状を報告し、未完性・未実現で「現在進行形の意向」とも呼びうる資料の中から代表的な未完の詩、建築プロポーザル、未撮影の映画台本《The Grand Mistake》を紹介する。
アマラ・マグローリン(リサーチ&コレクション・アソシエート)
「「Medically In Our Time」─マドリン・ギンズの未出版原稿」
1970年代後期、マドリン・ギンズは私人の立場から医学の研究を新たに始めた。出版をめさして5年をかけて医師、研究者、患者にインタビューを重ねた。医学の異なる分野の治療方法を総合化し、一つの本にまとめて患者が自分で健康問題を探求できるようにするのが目的だった。この発表では、ギンズが広範におこなったインタビュー、および詩人としての結論を紹介する。
ST・ルック(RDFプロジェクト・マネージャー)
「《Ubiquitous Site X》あるいは天命反転ホテル」
本発表では、アラカワとマドリン・ギンズの協働プロジェクトのプロセスに焦点を絞り、アラカワの1987-91年作品《どこにでもある場 X》から二人の共作《天命反転ホテル》まで繰り返し出てくる鍵となる要素を探る。ここで、後者は《あなたの身体と生活が作品となる美術館》の中核的存在で、2000年代初頭に提案されたが未完のまま今日にいたっている。
手塚美和子(RDFアソシエート・ディレクター)
「未完から完成へ?──アラカワの《無題》(1969年)における”Stolen”(盗難)の問題」
本発表では、「盗まれた絵画」の異名を持つアラカワの1959年作品《無題》(コネティカット州ワズワース・アテネウム美術館蔵)をとりあげ、アーカイブ資料を参照しつつ「未完性」の意味を考え、このユニークなエピソードの歴史化を図る。
コメントとディスカッション
富井玲子(RDFアーカイブ・アドバイザー)が各発表にコメントし、発表者間のディスカッション、および観客からの質疑応答を司会進行する。
リバーシブル・デスティニー財団は2010年に荒川修作とマドリン・ギンズによって設立され、芸術、建築、文学における彼らの活動と哲学を促進することを目的としている。 同財団は荒川とギンズの思想と芸術的実践に関する研究を支援し、人々の関心を高め、彼らのレガシーを守りさらに発展させてゆくためのさまざまな取り組みを行っている。