Distraction Series 16: 宮崎駿監督とアラカワ

Hayao Miyazaki and Arakawa at the Reversible Destiny Lofts Mitaka—In Memory of Helen Keller, photograph by Momoyo Homma, 2005

Distraction Series 16では、“アーカイブ資料から読み解くArakawa/Ginsの交友関係”(仮題、シリーズ化検討中)より、まず初回はアニメ監督の宮崎駿さんとアラカワについてご紹介しましょう。

アニメーション映画に詳しくない方も、スタジオジブリの「となりのトトロ」(My Neighbor Totoro, 1988)や「千と千尋の神隠し」(Spirited Away, 2001)などのヒット作はタイトルを聞いたことがあると思います。

その監督である宮崎駿氏とアラカワの交友関係は意外にもあまり知られていませんが、宮崎氏が養老天命反転地を訪れたことをきっかけに、公の場での対談はもちろん、プライヴェートでも互いの事務所を訪ねては対話を繰り返してきました。ときにはそれぞれが次の予定をキャンセルして話し込むこともあり、その様子はまるで二人の少年がこれから作る理想の秘密基地について興奮して話しているかのようでした。

Hayao Miyazaki at the Reversible Destiny Lofts Mitaka—In Memory of Helen Keller, photograph by Momoyo Homma, 2005

建築すること、について二人が語っている印象的な会話があります:

宮崎:―荒川さんの街は、とても面白い。近代建築がやろうとしたことの全部裏を行ってる。〈中略〉僕は、荒川さんの今回のプラン(*Sensorium City)を見た瞬間に、これが実現したら、21世紀に向けて日本という国が真面目に未来を考えていることの一つの証拠になると思った。だから、ぜひ実現させたい。

荒川:―あなたが建築家なんですよ(笑)〈中略〉風景を建設し、ビルディングを建てて、そこに人が住む。しかし、それはまだ建築にはほど遠い。「建築する」とは、新しい生命をつくりあげることなんです。あなたの映画の中ではいろんな出来事が起こるでしょう。あれが生命をつくっていくんですよ。事実、あなたはもうつくっているんです。

(月刊アドバタイジング6月号(No.504), 1998、『Talk Show 「宿命反転都市」建設に向けて – 東京に21世紀のNYをつくろう!)より抜粋)

Arakawa + Gins, Sensorium City, Tokyo Bay, city plan proposal, digital rendering, 1998

そして、宮崎氏の想いをスタジオジブリが2001年に完成させた建築が三鷹の森ジブリ美術館です。訪れた人たちが身体・五感を使ってそれぞれゆっくりと過ごしてほしい、と開館当時から今も完全予約制の美術館です。

その4年後にアラカワはギンズとともに長年の構想であった「三鷹天命反転住宅In Memory of Helen Keller」を完成させました。こちらはまさに「身体を中心とする建築」をコンセプトとした「死なないための建築」を提唱し、住宅とはいえやはり予約制で見学することができます。

Ghibli Museum, photograph of exterior, © Museo d’Arte Ghibli
Reversible Destiny Lofts Mitaka—In Memory of Helen Keller, exterior, photograph by Ken Kato, 2016

広い東京とはいえ、偶然にも同じ三鷹市というフィールドにそれぞれの想いを形にした建築が実現したのも不思議な縁と言えるでしょう。また、同じ地域にあることから、国内外の観光客や教育機関の見学旅行などで二つの建築物をセットで訪れる人たちも後を絶たず、世界に名だたる二人の偉大なクリエーターが次世代に伝えたかったことは、確実に草の根的に広がっています。

二人の建築に共通することは、外から見たときからワクワクし、中に入れば誰もがまず歓声をあげて笑顔になり、元気になることです。とはいえ、そんなシンプルなことが最も難しいのも事実です。

自然を畏れ、子どもの頃の感覚を持ち続け、人間として生まれてきた以上は地球に恩返しをする。二人の交友関係を通して、私たちが学び、伝えてゆくことは今こそ大切なのではないでしょうか。

宮崎さんは今日もアニメ映画をつくりつづけています。

アラカワさんは今、どうしているでしょう?

Yours in the reversible destiny mode,

荒川修作+マドリン・ギンズ東京事務所 and Reversible Destiny Foundation

[テキスト:本間桃世]

Special thanks to Hayao Miyazaki and Studio Ghibli, Inc.

Reversible Destiny Lofts Mitaka—In Memory of Helen Keller, entrance, photograph by Ken Kato, 2016
Ghibli Museum, photograph of exterior, © Museo d’Arte Ghibli
Hayao Miyazaki and Arakawa at the Reversible Destiny Lofts Mitaka—In Memory of Helen Keller, rooftop, photograph by Momoyo Homma, 2005