Distraction Series 13: What the President Will Say and Do!!(11月9日更新)

マドリン・ギンズ『What the President Will Say and Do!!』(Barrytown, NY: Station Hill Press, 1984年)表紙イメージ。カバーデザインは荒川修作によるもの

Dear Friends,

アメリカ大統領選、そして、新型コロナ感染数増加に揺れる11月が始まりました。誰もがこの緊張の日々をどう過ごしていくかを考えていることと察します。『Distraction Series』第13号では、マドリン・ギンズによる著書『What the President Will Say and Do!!』(大統領がこれから何を言い何をするか!!)を紐解いてみます。1984年出版でありながら、冒頭の数章は空恐ろしい程私達が生きる今この時と重なりあい、さらに後半の「How to Breathe」(呼吸の仕方)と題された章では、困難を生き残る術が綴られています。今回は特に皆様に精神の安らぎをもたらせるよう、そして明日11月7日のマドリンの誕生日のお祝いも兼ねて、著書の後半部分をR D Fウェブサイト上で短いエッセーにてご紹介します。本から抜粋した数ページのイメージと共に是非ご一読ください。この大切な月のみなさまの健康と安全を願って。

Yours in the reversible destiny mode,

Reversible Destiny Foundation and ARAKAWA+GINS Tokyo Office 

How to Breathe (呼吸の仕方)

by Amara Magloughlin

マドリン・ギンズの『What the President Will Say and Do!!』(大統領がこれから何を言い何をするか!!)は1984年出版ですが、まるで今について書かれたエッセー集として読むことができます。その中でも「All Men are Sisters」(全ての男性はみな姉妹)という章の一部の〈How to Breathe〉(呼吸の仕方)と題された短い文章は、例えば、空気感染で世界中に猛威を奮う新型コロナの影響で、息をするという事にいかに私たちが神経をとがらせているか、などの今日の社会と政治の不安定な状況を踏まえながら読み込むととても痛烈な描写であふれているように感じられます。マドリンがこの本を執筆した当時は大統領予備選挙の時期でした。彼女は語り手として、いかに呼吸をするという行為で政治の季節を乗り越えるかを綴っていたのです。まず初めの数行は、適切な呼吸の仕方をきちんと理解する前には呼吸をしないよう読み手に注意を喚起します。そうしないと読み手は「喜んで放棄した積りに積もった社会的腐敗がうみだした自分たちの汚染された意志に、自ら望んで陥ることとなるでしょう。」そしてきっちり3段階で、口と鼻から空気を取り込みさらに肺へと循環する呼吸の身体システムを、つまらない体の部位の名前を使うことなく詩的に叙述します。そして続く2ページに渡って読者は、普段ほぼ無意識に行われている身体の運動の細部までを意識させられます。2020年の今ではよく知られる呼吸に集中する瞑想法へと気付かぬうちに導かれ、結果、呼吸をする主体は誰なのかという問いへと誘われていきます。この呼吸というプロセスに従っているのは他に何であるのか、ギンズは問いかけます:

母?金銭?記憶?これらは当てはまる(当てはめられた)ものだろうか?欺瞞?借金?矛盾?懺悔?栄誉?同情?これらは結局何に従っているのだろうか?人相の印象は従属の形に制覇されるが、それ以外に何が[従属の形を]支持するのだろう?

一つ息を吸い込む時、おそらくこれらの謎のうちの一つが問われ、一つ息を吐く時、その答えのための時間と空間が提供される。このプロセスはギンズによれば生まれると同時に始まるとされます。ギンズが列記した問いを全て吸い込み、息を吐く時にはその内いくつかを自己のうちに留めておくこともまた可能なのです。呼吸とは、前後左右または内外へと「振り動く(sway)」ことであり、私たちの夢を包囲するもの。そしてそれらの夢は「内部から活性化される(galvanize[d])。」つまりここでギンズは、電気の閃光が夢を感電、発火させ、刺激し続けるイメージを語っているのかもしれません。ただしすぐ次の行では、夢はすでにそれらが思い起こさせた彫刻へと、おそらく「galvanize[d] 」という文字通り、メッキをかけられて固体化していきます。呼吸の一つ一つは夢となり、文字通りの彫刻ではなくとも「古代から伝わる」彫刻の記録へと変身するーまるでオウィディウスによるピュグマリオーンの物語のなかで、彼自らが作った彫像に息を吹き込み、夢の理想像である女性ガラテアを生み出すように。大気を取り込み押し出すという一呼吸ごとが、この神話の世界の事象を現実世界で再現するという行為なのです。

しかしこの時点でギンズは、まだ読者は呼吸をすべきでないと注意します。いつ酸素を取りこみ、二酸化炭素を排出すべきなのかすらまだ誰もわかっていない、と。これを隠喩として読むことができるでしょうか。まず呼吸をする前に、一呼吸ごとに何を保持し使用するのか、そして何を廃棄するのかを正確に理解する必要があります。そこでギンズは生理学的に呼吸とはどのようなことなのかを綿密に説明します。「860平方フィート(79.9平方メートル)の表面積に1秒以下で酸素を送り込む事(管の全長は1,500マイル[2,414キロメートル])。」(空気感染するウイルスのことを念頭におくと、肺を考えるのは今の私たちにやや危機感をもたらします。)ギンズは、この呼吸のプロセスを私たちが自分の体内に感じ取る事ができるか、それとも肺を無駄な付属物と思うかと問いかけ、さらに私たち、果てはその「亡霊(ghost)」においても、肺が左右対称ではない事、右肺は3葉で左肺は2葉である事、他の生き物においては肺が体の他の部分に癒合している事もある事、などを考えさせます。なんにせよ、肺は使わなければ無用の長物。身体機能に関与してこそ「洗練」され、「振動する」のです。

マドリンの指示に注意深く従ってきたなら、読者はここにきてもまだ呼吸はしていないはずですが、今までもずっと無意識、無自覚に息を吸い吐いていたことに気づかされます。しかし実際には、呼吸について沈思黙考する事で、ある選択をする準備を整えてきたのです。つまり、引き続き受動的に呼吸し比較的苦労のない状態のままでいるか、それとも、呼吸という身体を生かす行為に積極的に関与するか。

呼吸した。歴史は。呼吸はこれから下記の事項に必須のものとみなされる:

1. 免許を取る

2. 職を見つける

3. 子供を持つ

4. 革命を起こす

5. 馬鹿になる

6. 笑う

もちろん私たちはここに、投票する、をあげる事もできるでしょう。

ようやく読者が呼吸をする時が来ました。但し書き付きで。

一度呼吸をし始めると、もう元には戻れません。しかし、この特訓によってあなたは自身の重みを感じることになるでしょう。呼吸は、はじめのうち不安に感じられるかもしれない鼻歌を伴うでしょう、、、、それと共に、全く予期できぬ(最も純粋な論理的難点である)かすかでエロチックな震えも起こるでしょう。

現在の視点から考えると、「自身の重み」を得るというのは、息を潜めて生きるよりも、市民生活に能動的に関わることで増すだろう不安も責任も負って得られるもの、と同義であるかもしれません。将来をいくら心配しても、次に何が来るかという謎を解くに役立つ鍵など見つかりません。もしあなたの心構えができたなら、口を開けて空気を口内でどう感じるかやってみる時が来た、とギンズはすすめます。でもまだ吸い込んではいけません。その前にまず空気を耳へ振り送る練習をしてみましょう。次に、空気を欲しい、隔膜の動きでそれを上下へ取り込みたい、と思いましょう。この手順が自分の内部で自然発生しなければならず、最古の祖先が息を吸い込むのと同じに従われる手順なのだと理解するまでの多少の遅れの後、「さあ、呼吸しましょう。」

続くページで私たち読者はギンズとともに呼吸をします。テキストを読み進むと同時に、「どの瞬間に自分の内で呼吸が始まったか決める」よう促されます。すでに始まっていたと気づいていなかったかもしれませんが、振り返るとある時点でテキストが「霞んで見え」たはず。つまりこれは明らかに呼吸をしていた証拠です。どのように呼吸を「通して」動くのかは専門家に任せるべき問いであるとギンズは言います。少なくとも彼女は私たちにどの様に「吸って」「吐く」のかを教えてくれました。そして最後に一つの問いを投げかけますー「今日吸い込んでも保持する事なく排出したものは、どうしたら保持するよう吸い込むことができるのだろうか?」ここまでは継続的な呼吸を考えてきたので、これは少々奇妙な問いです。ただし、一呼吸毎が違った空気サンプルからなり、そのうちの酸素は取り込まれ、二酸化炭素は排出されることを考えると、呼吸されるのは一度として同じ空気サンプルではありえない事になります。もし私たちがこのテキストから一つでも学ばせられるとしたらそれはおそらく、一瞬一瞬が唯一無二であり、その瞬間にしっかりと関与するかしないかは私たちそれぞれの選択にかかっている。長い歴史軸の中の一点である今この瞬間、歴史は繰り返すとは言え、その瞬間にする選択の機会は誰もが一度しか与えられていない。その瞬間ごとに私たちができるのは、呼吸し、問いかけ、選択肢を考え、解き放つものは時空へと発散させる事。その選択の重要性をどれだけ考え続けるかは私たちに任されています。新しい空気を呼吸する次のステップへ向けて、ギンズの呼吸の仕方が私たちに刺激となる息を吹き込んでくれますように。

Sources:
Top image: Madeline Gins. What the President Will Say and Do!! Barrytown, NY: Station Hill Press, 1984,
front cover design by Arakawa. Bottom images: Madeline Gins. “How to Breathe”, What the President Will Say and Do!! Barrytown, NY: Station Hill Press, 1984, pp. 101-108.